自衛隊の中東地域への派遣は日本の安全保障に深刻な害をもたらす①

安倍内閣が中東海域への自衛隊派遣を閣議決定したことが、自衛隊内でも波紋を呼んでいるという。
「あまりに政治的だ」という海自幹部の意見は正しく、むしろ政治的でないと見る方が不自然である。
ただでさえ自衛官の成り手が少なくなってきているこの時代に新たな新たな海外派遣を決めた安倍政権だが、これでは一体なんのための『自衛隊』なのかという疑問がわいてくる。

さて、果たして中東地域への海外派遣を決めた安倍政権だが、これが何のための派遣なのかはさておき、この閣議決定が日本の安全保障に害をもたらすことを懸念している。
毎日新聞が取材した現場の自衛官が「対米関係を意識した政治的な決断」というのは正解なのだが、そもそも小泉政権以降、日本と中東の関係はどのようになったのかを考える必要がある。
小泉政権下で自衛隊の中東派遣を行った際、日本人の人質が取られているが、この段階から中東諸国における日本への信用は揺らいだと言っていい。自衛隊のイラク派遣は小泉政権の行った政策の中でも大の失敗だ。それでも小泉以降、しばらくの間対中東という面では特に大きなイベントは起こることはなく、日本と中東諸国は一定の距離を保つことは一応できていた時期でもある。
そのパワーバランスが崩れてきたのは第二次安倍内閣からだ。
安倍内閣になって最も変わったことは何かと言えば、対米従属は勿論だが、それ以上にイスラエルとの関係性が大きい。
安倍首相は2014年にネタニヤフ首相と会談しているが、第二次安倍内閣になって以降、日本とイスラエルの距離が近くなっているのである。日本の軍事産業はかなりの技術力・有しているため、これは中東のイスラム諸国を刺激するのには十分なものであった。中村医師が凶弾に倒れることになったのも、この延長にあると言っていい。
中村医師は憲法9条を大変尊んでいたが、しかし実は憲法9条が海外からの抑止力になっているということは全くない。というより現行憲法でも充分に9条は解釈改憲が可能で、9条による不戦の誓いなど既にお飾りでしかない。ある意味で安倍内閣にとって、自民党改憲案の9条は最早『安倍内閣にとっての護憲』に過ぎないのである。
つまるところ、日本の国防にもう9条の有無など殆ど関係がない。対中東関係を意識するのにおいて憲法9条などあろうがなかろうがどうでも良いのである。

では、何が自衛隊中東派遣で日本の安全保障上に害をもたらすと言うのか。
それは無論アメリカだけでなく、イスラエルとの関係強化による中東の刺激、並びに「イスラム国」である。

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